2018-07-20

頂いたご意見から

本ブログを公開した際に、聴覚評論家 中川雅文 (@masafummi)さんから、感想をtwitterに投稿していただきました。
中川さんは、「耳の不調が脳までダメにする(講談社プラスアルファ新書)」「補聴器ハンドブック(監訳、医歯薬出版)」等の著書をもつ方なのだそうです(twitterの自己紹介より)。

アンケート結果を医療の立場から見たときに、どうお感じになったのか。ツイートをきっかけに調べてみて分かったことも含め、まとめてみました。


[目次]
 〇感想ツイートの紹介
 〇補聴器の調整について
  キーワード:2ccカプラー、OSPL90、オーバーゲイン、REM
 〇聴力変動と手話について
  キーワード:思春期、ホルモン、難聴の進行、手話獲得
 〇文字によるコミュニケーション
  キーワード:筆談、文字、ICT



 
[感想ツイートの紹介]
補聴器適合検査でしっかり診断してもらい、良心的な補聴器屋さんで 調整してもらえば補聴器で難聴になることはない。は本当か?

A: 2ccカプラーだけで補聴器適合検査した場合、OSPL90は実効で120dB超えていても見かけ上110~115dBに見えてしまう。補聴器適合検査すれば絶対大丈夫とは言えない。

3割が等級悪化しているのは、OSPL90の評価が適切に行われずオーバゲインとなっているケースが少なくないことを示唆しいている。高度重度ではREMでの評価が必須であるし、2ccカプラだけでの評価は非常にリスキーである。

ラットでは♀の場合、思春期に大きな脳内ネットワーク再編が生じる。使わないシナプスはその接合をドルマントさせる。このことは、思春期に難聴が進むことと関係しているかも知れない。生理学的には性ホルモンの変化がそれに関与していると言われる。

聴覚と口話だけでなく手話を並行して獲得していくことで、難聴の進行に伴うコミュニケーション手段の移行に伴うgapを小さくすることが出来ると思う。

確実なコミュニケーションの取れる筆談や文字の使用のニーズが高まっているから利用者が増えたのか、ITCの普及がそうした結果を導いたかは判断つかない。

その2が楽しみ。

 
[補聴器の調整について]
キーワード:2ccカプラー、OSPL90、オーバーゲイン、REM

まず、補聴器の調整(フィッティング)の仕方について簡単に触れます。

現在のデジタル補聴器は、専用の機械を経由して、パソコンに接続して設定しています。その際、「マイクに〇dBの音を聞かせたら〇dBの音に大きくする」という設定をするのですが、正しく設定できているかは、実際に「マイクに入力」して「出力音をスピーカーで聞き取る」ことで、確認しています。そのための機会を「補聴器特性試験装置」といいます(以下、特性装置と略します)。

  補聴器特性試験装置の例 (リオン社。PDFへのリンク)

特性装置で測定する際に使われているのが「2ccカプラー」という「疑似的な耳」です。2ccというのは、成人の耳の穴の大きさ(2立法センチメートル)を模した空間のことで、そこを経由して、何dBの音に聞こえているかを調べています。
そして測定項目の1つに、90dBの音を入力したときの「補聴器から出る音の大きさ」を調べるという項目があり、これを「OSPL90」と呼んでいます(JISの規格)。

※正式には「90 dB入力最大出力音圧レベル OSPL90(output SPL for 90-dB input SPL,OSPL90)」…補聴器の利得調整を最大設定にしたときに,90 dB の入力音圧レベルに対して音響カプラ内に発生した音圧レベル。


簡単に言うと、日常生活の中で、主に人の話を聞くために必要な音の大きさを60dB、聞き取る音の最大を90dBとして、その音の大きさが「本人が聞き取れる大きさの範囲」に入るように、オージオグラムを見ながら音量調節をするのが、特性装置を用いたフィッティングの方法です。

A: 2ccカプラーだけで補聴器適合検査した場合、OSPL90は実効で120dB超えていても見かけ上110~115dBに見えてしまう。補聴器適合検査すれば絶対大丈夫とは言えない。」という説明は、

・2ccカプラーは「実際の耳の大きさ」と違う場合がある(小さい子の耳は、もっと小さい)。そのことにより、実際の聞こえが「120dBを超えて」しまう場合がある。
→「補聴器を付け続けることで聴力が低下する」可能性が出てくる。
ということです。つまり、機械任せではそれぞれの耳や聞こえ方に対応できない場合がある、ということですね。

また、
3割が等級悪化しているのは、OSPL90の評価が適切に行われずオーバゲインとなっているケースが少なくないことを示唆しいている。高度重度ではREMでの評価が必須であるし、2ccカプラだけでの評価は非常にリスキーである。
という説明は、

・必要以上の大きすぎる音(オーバーゲイン)で使用することで、聴力低下につながっている可能性が少なからずある
→補聴器の調整は、実際に本人が補聴器を付けて実耳で測定(REM)する必要がある
ということですね。

ちなみにREMについて詳しいことは、以下の検索結果からご覧ください。
  「補聴器 REM


 
 
[聴力変動と手話について]
キーワード:思春期、ホルモン、難聴の進行、手話獲得

ラットでは♀の場合、思春期に大きな脳内ネットワーク再編が生じる。使わないシナプスはその接合をドルマントさせる。このことは、思春期に難聴が進むことと関係しているかも知れない。生理学的には性ホルモンの変化がそれに関与していると言われる。

言い換えると、
「性ホルモンの変化で使わないシナプスが休眠状態になる現象がラットで見られる。思春期の難聴の進行にも類似の現象があるのでは」という話(仮説)ですね。


聴覚と口話だけでなく手話を並行して獲得していくことで、難聴の進行に伴うコミュニケーション手段の移行に伴うgapを小さくすることが出来ると思う。

これも、「手話を学んでおけば、難聴が進行してもコミュニケーション上の影響を小さく抑えられる」ということかと思います。

 
[文字によるコミュニケーション]
キーワード:筆談、文字、ICT

確実なコミュニケーションの取れる筆談や文字の使用のニーズが高まっているから利用者が増えたのか、ITCの普及がそうした結果を導いたかは判断つかない。

これは在学時から、現在の変化に関する分析ですね。



中川さん、コメントありがとうございました。


なお、中川さんについては、以下の検索結果をご覧いただければと思います。
  「中川雅文


0 件のコメント:

コメントを投稿

このブログの記事一覧

☆ はじめに  …ブログの趣旨、紹介用チラシ、二次利用の許諾手続き、承諾履歴 ☆アンケート結果(2018決定版)   前半   New!! ☆アンケート結果 (2018-07版) …100名の方からご回答いただきました   その1  … 信頼性、回答者の概要(男女...